皆さんこんにちは。

今回は,私の上司より依頼がありまして,私が臨床家としてどういうスタンスで臨んでいるか,どういう考えで挑んでいるかを記したいと思います.

まず,私の職業は言語聴覚士ですが,臨床の考え方はどちらかというとお医者さんに近いものがあります.それは私の師匠と呼ぶべき人がお医者さんなので,その考え方に近くなったと思います.

なので,言語聴覚士が良く使う高頻度語とか低頻度語などは,ほとんど考えたことはありません.

 

①考えの基本は『症候群』という考え方でパターンを見出すこと

 

これは患者が居て,その中に疾患があり,疾患には病巣が存在し,病巣には症候群があり,症候群は徴候,症状,検査所見がまとまりになっているという考え方です.ここでいくつか用語の整理をしてみましょう.

  • 症状 (symptom): 患者が経験する,人体構造,機能,感覚における病的状態または正常からの逸脱.
  • 徴候 (sign): 患者を診察・検査して見出すことのできる,疾病を示唆する何らかの異常所見.

これは、医療の考えでは当たり前なのですが、患者さんの不調は理由なく起こる訳ではありません。

症状があり、徴候を調べ、症候群としてのまとまり方を調べることで、方針や予後の予測を示すことができます。

 

私が臨床に望むとき、この臨床症候群を見出すことを、第一に考えます。

なぜかというと、このパターンが見出せると、その患者さんと関わりやすくなるからです。

例えば、今回流行った感染症のCOVID -19ですが、まずは普通の感冒症状やインフルエンザとの違いをはっきりさせるために、こういう症状がある、こういう症状はない等の『症状のまとまり方』を見出すことに躍起になりました。

これは感染力の違い、医療従事者が患者の対応にあたる際の感染予防方法の違い、投薬の違いがあるため、各疾患ごとに区別をつける必要があるからです。

 

話は戻りますが、症候群という考え方で良い点は、多少の不一致点を見逃すことができるという点です。

教科書に疾患名や症状は載っていますが、その全てに典型的に当てはまる例は、そう多くはありません。載っている症状が無かったり、載っていない症状が出ていたりもします。

例えば、新型コロナウイルス感染症で一時的に話題になった、味覚嗅覚の異常ですが、これは全体の40%程に現れる症状です。これくらいの割合だと出ることもあるし、無い時もあるくらいの出現頻度です。

ですが、嗅覚や味覚の異常が出る疾患は、おそらくあまり経験がない人も多いので、テレビで特集されて取り上げられたのだと思います。

症候群の考え方では、重要度の高い症状と、出現頻度が高くない症状で分けられることもあり、いずれも症状の出現パターンやまとまり方で、大まかな状態を掴むことができます。

 

さらに追加すると、まとまり方に加え、『どの症状が何年前からどういう順番で出てきたか』という情報も重要になります。

それがわかると、「この病気は次にこの症状が出る」という予測が立つことに加え、『出る順番』と『出てどのくらい経過したか』という情報で,診断名が大きく変化します。また家族や本人が抱えている悩みや、生活にどう困っているかも時系列で変化します。

なので『縦断的な情報(時系列の情報)』と『横断的な情報(現在の症状、情報)』を両方集める必要があります。


②主観的な考えと客観的な情報を分離する

次に大事にしていることは,主観的な考えと客観的な情報(事実)を分離するということです.

これを行うことの目的は,私たち支援者がきちんと情報を整理しやすくなることに加え,ご家族の方が当事者の情報も整理しやすくなることです.

ここで,なぜ情報を整理しなくてはならないのか,整理しなくても支援に当たることはできる,と考えている方もいらっしゃると思います.

確かに支援に当たることは出来ますが,それはただ対症療法的に問題が起きたら対処,問題が起きたら対処を繰り返すのみで辟易してしまい,いつか挫けてしまいます.さらに人間は『わからない』ことに対し,畏怖の念を抱きます.支援者のみなさんは,家族の方やほかの支援者がわからないことに対し,イライラしている様子や不安な様子を見たことがあるかと思います.

なので,情報を整理し,なにがどうなっているかをわかるようにしておくことが非常に重要なことなのです.

 

主観的な考えというのは己の解釈なので,客観的な情報と比べて誤っていることがしばしばあります.

個人的な経験ですが,ある患者さんのご家族が私に『最近,母が物忘れをするようになった』と訴えてきました.そこで,診察してみると,実は言語の障害で言葉が離せなくなっていたのです.

このように,主観的な情報のみでは齟齬を生じることもあり,解釈と事実が異なっていることもしばしばあります.

また,自己解釈の情報は,感情が混じりやすくなるため,正しい情報が入りにくくなります.

さらに情報を整理することで,家族が本人を『正しく観察』することができるようになります.この表現は適切かわかりませんが,家族は当事者と距離が近くなればなるほど,本人の正しい情報を得にくく,主観的な情報と客観的な情報が入り交じり,何が何だか分からなくなり,疲弊していきます.

なので,一定の距離を取り,観察する目線を持つことは家族が本人と接していて辟易しないようにするためには必要なものだと,私は思います.

 

では,どうやって客観的な目線を持たせることができるようになるのでしょうか.

ここで大事なのは初回の診察や面談になります.ここで家族の訴えを聞くばかりでなく,セラピストや支援者が『事実を述べるように』促します.例えば「常にイライラして叫んでいる」と述べた場合,『イライラしている』『叫んでいる』というのは,話し手の主観的な解釈になります.なので『○○したとき,大きな声を出している』『突然,大きな声を出した』と,事実を伝えるよう(言語化)に促します.言語化できないことはわからないので,支援者が代わりに言語化するように努めてください.それは支援者の重要な役割です.

さらに情報を整理するときに大事なことは,先ほども述べた『縦断的な情報(時系列の情報)』と『横断的な情報(現在の症状、情報)』できちんと整理することです.そうやって整理すると,家族や我々支援者は,現在の情報と過去の情報を整理し,経時的に物事を考えることができるようになっていきます.

ここで,私が良く使うのは『構造化インタビュー』の検査をよく使います.

構造化とは,取る順序や説明台詞が決まっているものです.これはなぜ良いのかと言うと,家族は専門家ではないので,専門用語が混じったことに対し,都度聞かれ方が変わると,情報が整理できず,訳が分からなくなります.なので,常に同じ形で聞く構造化インタビューの検査は,情報整理に一役買うのです.

 

如何でしたでしょうか?

次回は別の内容で,話していこうと思います.