皆さんこんにちわ。

今回は少し難しい内容になるかもしれませんが、言葉の特性について興味深い考えを述べてみようと思います。

皆さんは相手に言葉を伝える時、うまく伝わらないことはありませんか?

自分ではキチンと説明したつもりでも、相手がよくわかっていなかったり・・・。

具体的な例で挙げると、幼児は『自動車』を『ブーブー』と行ったり、バスもトラックも自転車も、乗り物と呼べるものは全て『ブーブー』と言ったりします。同様に自閉症スペクトラム傾向の子も同じように『自分言葉』と言われるような、相手に伝わらない表現を使うことがよくあります。

発達の過程でも見られるこの話し言葉の特徴は、何なのでしょうか?

 

このことを僕たち神経心理学者たちは『範疇的態度(Categolical Attitude )』と呼びます。

 

範疇的態度をネットで調べると、このように記されています。

 

抽象的態度ともいう。対象をそれがもつ具体的特性においてではなく,その対象を含む概念または範疇のなかの一つとして把握し,それに反応する態度。これによって,思考過程は眼前の直接的,具体的な状況の拘束を脱し,さらに広く抽象的な世界にまで拡大される。

 

よくわからない表現ですね笑

 

この概念を提唱したのはドイツの脳病理学者カール・ゴルトシュタイン(Kurl Goldstein, 1878-1965)という学者です。

ゴルトシュタインの考えは『全体論(各精神機能・各身体機能は脳の特定の部位の働きだけではないとする説)』の立場から非局在説を展開したことにあります。

脳損傷後の基本障害としてゴルトシュタインは『範疇的態度(カテゴリー的態度)の喪失』と定義しました。

これは脳の特定部位の損傷によって、特定の認知機能障害や身体機能障害が起こるのではなく、カテゴリーを認識・構成して行動するための態度(要素)の全体が障害される、という理論を展開しました。

ゴルトシュタインは脳損傷患者はどこの部位を損傷したかに関わらず、共通の基本的障害を示すことになる、と述べています。

その基本的障害のことを『抽象的(範疇的)態度の喪失(物事を抽象化して思考する能力や態度の喪失)』と提示しました。

 

私たちが知っていることで、脳は各部位ごとに役割が異なっており、1cm違うと各々の部位が別々の働きをしていることは周知されています。

なので、脳損傷の患者さんは『麻痺はないけど新しいことが覚えられない』『手足は動かないけど、話したりすることはできる』と症状がマチマチになります。

 

ゴルトシュタインの考えを、言語表出に当てはめるてみましょう。

例えば『リンゴ』を見て名前をいうとき、私たちは目で見て、『赤い色』『球体に近い』『ヘタがついてる』『硬い』等、様々な要素を知覚・認識し、それに近い情報を持っているものを『リンゴ』と呼んでいます。

この知覚した要素の中で、例えば、『色が緑』『皮の触り心地がザラザラしてる』等、条件が変わると、『リンゴ』が『梨』になったりします。

つまり、『リンゴ』という言葉は、その対象の本質を表しているのではなく、自分自身で要素を見出し、自身が知り得た知識概念の中で『リンゴ』という概念に当てはまっているものを『リンゴ』と呼んでいるに過ぎないということになります。

これは、古代ギリシャの哲学者プラトンが提唱した『イデア論』に近いかもしれませんが、ここでは割愛します。

 

ここで1つ興味深い症例を紹介します。

ある脳損傷の患者さんで、軽度ですが言語障害が出た方です。

この方に品物の名前を言う検査をした時に、検査者は『机』を指さしました。

その方は「机・・ですよね?でも私の知っている机と違う」と言うのです。

それ以降、その方は自身の中で机と思えるものに全て『机』とラベル張りをして行きました。

他の症状は省きますが、これは、典型的な範疇化(カテゴライズ)の障害で、知覚・認識している要素が、自身の知っている『机』という像と脳損傷により結びつかなくなってしまったのです。

 

これは自閉症スペクトラム傾向の方にも似たようなことが言えます。

発達障害の子たちは、私たちの知覚・認識・感覚統合とは相違があり、その中で様々なことで学習していきます。

なので、私たちが学習や経験で知り得た情報と、発達障害の子たちが学習して知り得た情報と異なっている可能性があります。

また小さい子たちは、言語概念や感覚が未発達なので、子ども自身が感じていることや思っていることと、話し言葉が違うことがあります。

そこで『自分言葉』で伝えようとし、結果的にうまく伝わらないということが生じます。

 

私たちの生活では、例えば『お酒』というと、大抵の方はビールを思い浮かべますが、お酒好きな方たちは『日本酒』を思い浮かべたりします。

これも範疇化の違いと呼べるかもしれません。

 

少し長くなりましたが、少しでも興味を持っていただいたら幸いです。

みなさんも、自分自身の考えが伝わっていない時、すこし思い出してみてはいかがでしょうか?

小松慎太郎